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薬と歴史シリーズ 7

薬と菊の御紋 へ ≪  ≫ 軍隊と薬、征露丸 へ
~ 軍隊と薬、局方 ~


昔の薬を訪ね、さまよい歩くこの連載の「薬と歴史シリーズ55つづき」では、本項と似たテーマ“戦争と薬の広告・景品たち”と題し戦争に影響を受けた薬の広告やパンフレット、景品などを取り上げてみ ました。
骨董市に行きますと、軍隊関連の品々を専門に扱う骨董屋さんや、その骨董市そのものが軍隊関係の品に強い市(靖國神社骨董市)などがあり、またキューバのカストロやチェ・ゲバラのような迷彩色のゲリラ服を着た、どうみてもその道のコレクターとしか見えない変わり者・変人にもお目に掛かることがあります。
本項ではそのような骨董市の中で、常時決戦必勝あるのみの覚悟で軍隊物コレクターとの戦いに勝利し手に入れた品々を、諸君に紹介する次第である。

その1)局方

  • 薬剤師が聖書や仏典のごとくに崇めるというより崇めなければならない書物に『日本薬局方』があります。(実際のところは国家試験で苦しめられた本。ほとんど読むことが無いのに薬局では備えなければならなく値段も結構高いので、薬局を始めてからも苦しめられている本です。)

  • 『日本薬局方』は今から120年前の明治19年(1886年)に制定され、当初は10年以上のサイクルで改訂の予定が、その後の薬や薬学の進歩が早すぎて現在でははや『十四改正日本薬局方』となっております。

  • ところが明治19年の『日本薬局方』の制定に先立つところの15年近くも前に、当時の陸軍では明治5年(1872年)に(:正確には兵部省が制定した「軍医寮局方」)、また海軍では明治6年(1873年)にそれぞれ独自に別々に『局方』を作りました。

  • それ程までに当時の日本においては軍隊の国家における比重が高かったことと、また陸軍と海軍はそれほどまでに仲が悪かったことが判りますが、この犬猿の仲は昭和20年(1945年)の終戦まで続き、これを敗戦の一つの理由にあげる戦史家もおります。(なお旧軍には独立した空軍という存在はありませんでした。)

  • 次のコレクションは明治40年(1907年)に印刷された『陸軍藥局方第二版』と明治6年(1873年)の『海軍藥局方』初版本です。

  • 陸軍は明治5年(1872年)制定の「軍醫寮局方」の後、『日本薬局方』を参考に平時(平和な時)も戦時の時も使える薬品を抜粋し明治30年(1897年)に『陸軍薬局方(改正)第一版』を制定、このコレクションの『陸軍藥局方 第二版』は明治37・8年(1904~05年)の戦役(つまり日露戦争)の経験を経て明治40年(1907年)に制定された『陸軍藥局方』です。

  • 一方『海軍藥局方』は木版印刷の和綴じの和本装丁で後書きには『海軍軍醫寮藥局方』と記されております。序文には漢文にて漢方医学の五行説や本草がダメなこと、英國局方を参考にこの書が作られたことなどが書かれております。{この局方に限らず海軍は英国海軍、陸軍は獨逸(ドイツ・プロシア)陸軍を参考に発達しました。}なお軍隊の局方なのに服量之比例(いまでいう小児服用量)として一歳~大人までの服用量の比率(一歳は大人の1/12量、14歳では1/2量など。)が書かれています。

『陸軍藥局方 第二版』
陸軍藥局方 第二版

『海軍藥局方』
海軍藥局方

その2)軍隊薬

  • ではコレクションから大東亜戦争(太平洋戦争)期における軍隊で使われていた薬をご覧下さい。
  • 旧陸軍においては兵隊以上に軍馬は大事に扱われました。一応兵隊用(☆※*)と軍馬用(・)に分けますが、戦争も末期になると物資不足の折から軍馬用の薬品も兵隊に使われました。 またこれらのコレクションは終戦後に旧軍が備蓄していたものを民間へ放出した品物も含まれると思われます。
〔兵隊用〕
☆陸軍薬局方 鹽酸キニーネ錠 一個中0.1g 陸軍衛生材料廠 2種類
 ;キナの樹皮から作られる薬でマラリヤの特効薬。南方での戦争には欠かせない薬。
鹽酸キニーネ錠

☆陸軍薬局方 沃剥錠(1個中ヨードカリウム0.2gヲ含ム)陸軍衛生材料本廠
 ;ヨウ素にヨウ化カリウムを加えてエタノールに溶かしたのがヨ(ード)チン(キ)。
  さらにグリセリンやハッカ水などを加えるとルゴールとなる。
沃剥錠

☆陸軍薬局方 管入沃丁(ガーゼ付)約0.7cc  陸軍衛生材料廠
 ;丁は丁幾(チンキ)のこと。
  前記のようにヨウ素のアルコール溶液がヨードチンキで樟脳(クスノキの一成分)のアルコール溶液がカンフル(チンキ)。
  ガーゼを巻いたアンプルをガーゼごと石などで叩き割って傷を消毒する。
  一見危ない感じがするが、戦場であり無敵皇軍兵士は果敢なる精神力でものともせず。
  各0.7cc入りですがアンプルの大きさが2種類あります。
管入沃丁

管入沃丁

☆弱カルチウム液 20cc       陸軍衛生材料廠
 ;(不明)
弱カルチウム液

☆パビナールアトロピン液       陸軍衛生材料本廠
  (1cc中 塩酸ヂヒドロオキシコデイノン 0.008g
       塩酸ヒドロコタルニン     0.002g
       硫酸アトロピン        0.0003g)
  -昭和18年4月製-
 ;麻酔、止血薬らしい。
パビナールアトロピン液

☆陸軍薬局方 燐酸 コデイン錠 1箇中 0.03g
  -昭和19年11月製-  陸軍衛生材料本廠
 ;モルヒネの化合物の一つ。咳止め、鎮静劑。
燐酸 コデイン錠
☆陸軍薬局方 ジギタリス錠
  -昭和19年9月製-
 ;強心剤。
ジギタリス錠

☆み號劑 45箇(5人4日分)
  用法:1日3回毎食後3箇(1人1日9箇)
  注意:2日服用2日休薬ヲ繰リ返スヘシ
     所要時ノ1日前ヨリ○ヲ開始スベシ
     1回3箇以上服用スヘカラス.
  -第七陸軍技術研究所 陸軍衛生材料本廠-
み號劑
☆劇 水虫液 40g
  ―昭和19年12月製-
  陸軍衛生材料本廠

劇 水虫液

*星秘膏 3G 50箇   陸軍需品廠
  (解説略)     陸軍衛生材料本廠
星秘膏

*脱脂綿板 30箇・5箇   衛生材料消耗品解説(;意味不明です。)
  -昭和16年8月製-    陸軍衛生材料本廠
脱脂綿板
脱脂綿板

*滅菌ガーゼ包 30cm2ノモノ2枚
  -昭和16年5月製-
  陸軍衛生材料本廠
滅菌ガーゼ包
*三角巾
  ―昭和19年  製-
  衛生材料消耗品解説(;意味不明です。)
  陸軍衛生材料本廠

三角巾

*ガーゼ・ 三角巾   満洲第七○○○

ガーゼ・三角巾
*亜鉛華絆創膏 九九式 500cm×25cm
  陸軍衛生材料本廠

亜鉛華絆創膏

*ラジウム白ゴム絆創膏「陸海軍常用」「家庭常用品」

ラジウム白ゴム絆創膏
*巻軸帯
  -昭和18年1月製-

亜鉛華絆創膏

*ガーゼ
  -昭和19年10月製-
ガーゼ
*アクリノ―ルガーゼ
  -昭和18年1月製-

アクリノ―ルガーゼ

*昇汞ガーゼ包
  -昭和16年11月製-
昇汞ガーゼ包
*昇汞ガーゼ包
  -昭和16年9月製-

昇汞ガーゼ包
=昇汞とは塩化第二水銀(Hgcl2)のことで消毒に用いるが極めて有毒=

*徐毒包
 (化学兵器の解毒剤が入った缶で水で溶いて皮膚に付着した毒物をふきとるもの)
徐毒包
*ビタミンB1錠
  -昭和19年10月製-
ビタミンB1錠

*陸軍蚊取線香
  -昭和17年4月製-
陸軍蚊取線香
*陸軍蚊追粉
  -昭和17年4月製-
陸軍蚊追粉
資生堂化学工業株式会社納

〔軍馬用〕
・日本薬局方 管入沃丁(ガーゼ付)約2cc 陸軍獣醫資材本廠
  -昭和18年12月製-           -昭和18年8月製-
管入沃丁

・巻軸帯 五裂
  陸軍獣醫資材本廠
  軍馬の足にゲートルのように巻いたものか?
巻軸帯
・健胃錠 壱箇重量5.5瓦 10箇入
  陸軍獣醫資材本廠
  -昭和18年12月1○製-
健胃錠

・木綿 三米
木綿


〔参考文献〕
・日本陸軍がよくわかる事典   PHP文庫
・日本海軍がよくわかる事典   PHP文庫
・日本薬局方
・目で見る くすりの博物誌   内藤記念くすり博物館

以下次回へと続く。なおクレオソート丸に関しては次回の“征露丸”の項へと譲ります。


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