今は昔 売薬歴史シリーズ 9
~ 健脳丸 ~前回の伝統薬シリーズは[丹平製薬株式会社]の『今治水』を取り上げましたが、今回は引き続き同社の伝統薬『健脳丸』を御紹介いたします。
◎『健脳丸』 = 〖健のう丸〗
- 今回御紹介します〖健のう丸〗は時代の変遷とともに名称変更に至った伝統薬の代表です。
- 『健脳丸』が発売されたのは[丹平製薬株式会社]が設立された明治27年の2年後の、今から110年以上も昔の明治29年(1896年)になります。
当時の新聞における本剤発売の主意広告には、一部意訳しますが次のようなことが書かれています。
“近年、知識競争を要する事業が勃興し(略)脳神経病者や夭折者が増えている。
脳髄は精神の首府万機の政。皆之れより出づ。しかしながらかくのごとき貴重な脳が不健康では優勝劣敗の世に
処し得ないし、国家のためにも不利であろう。
そこで病理に徴し、薬性に鑑み、千重万考して『健脳丸』を創製したものである。
徒に薬効を自賛しないが、本剤を服用し身を強健にして日本の急務に接し、国利民福を計られんことを望む。”
鬱(うつ)病が増加している昨今を彷彿とさせる広告ですが、このように明治20年代当時は海外からの文物、知識が多量に流入し、一次産業主体の国家から頭脳労働が広まり、国家としては富国強兵を目指した産業構造の大変化がおきつつある時代でした。 - このような時代にあって自ら頭重の持病に悩んでいた[丹平商会]を設立した六代目森平兵衛翁(幼名小二郎)は、薬学校の教官の知恵もかりて様々な薬を試行した結果たどりついたのが〖臭化カリウム二分、ゲンチアナ末五分、大黄末三分、アロエ末八厘〗という処方、つまり『健脳丸』でした。
臭化カリウムは大脳鎮静剤で、一方ゲンチアナは苦味健胃薬、大黄、アロエは下剤の作用がありますが、発売当初の『健脳丸』は上記の広告の内容はもちろんのこと脳を健やかにするというその名称からしても、今でいうところの脳神経領域に効果をうたった薬だったわけです。 - 具体的には当時の効能は次のようなものです。
「脳充血、逆上、神経痛、眩暈、脳膜炎、頭痛、顔面神経痛、ヒステリー、耳鳴り、癲癇、不眠、中風卒中、
ひきつけ、便秘、健忘、その他脳神経病一切」さらには「常に脳充血、逆上、頭痛の兆候ある人、大酒家
および常習便秘の人は持薬として毎日1~2服ずつ用いれば、脳病を全治するとともに身体強壮となる。」
と付け加えられています。
おおらかな時代だったと思います。 - 『健脳丸』の名称はスバリ脳に効くことを訴えて新鮮であり一躍大ヒットしたようですが、名前以外にも服用すると頭がクリア、スッキリになるからかその広告には横顔の坊主あたまが描かれ、それに健脳丸と大書きした強く印象的なものでした。
- 本剤は主薬効は便秘薬・下剤であって、お通じをつける結果二次効果として便秘や宿便からくるのぼせや頭重を改善するわけですが、似た名称パターンの製剤には後日紹介することがあると思いますが『首から上の薬』という伝統薬があります。
また当時は、下半身に直接かかわるような表現を避けた風潮も関係していたようです。 - そののち戦後の昭和30年代になって、後日紹介しますやはり明治28年ごろに発売された伝統薬の『毒掃丸』が“便秘・ニキビ・吹出物”の薬効を打ち出し、またそのころから便秘薬から臭化カリウムなどの鎮静剤を除外する行政指導が行われますと『健脳丸』も脳薬から便秘薬へと大転換、また名称も『健脳丸』から脳が消えて〖健のう丸〗へと変更となりました。
現在の〖健のう丸〗はダイオウ、アロエ、センノサイドからなりその効能は簡素化し次のようなものです。
「便秘 便秘に伴う次の症状の緩和:
頭重、のぼせ、肌あれ、吹出物、食欲不振(食欲減退)、腹部膨満、腸内異常発酵、痔」
- では『健脳丸』コレクションをご覧下さい。
(同社のその他の伝統薬『アスター軟膏』については後日、日を改めて御紹介します。)
《『健脳丸』A》 |
《『健脳丸』B》 |
《『健脳丸』C》 |
《『健脳丸』D》 |
健脳丸ラベル |
《『健脳丸』メモ帳 表・裏表紙 |
森平兵衛翁写真 |
『健脳丸』広告》 |
《『健脳丸』木製看板A》 |
《『健脳丸木製看板B》 |
《現代の〖健のう丸〗+効能書》 |
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〔参考文献〕
・インターネット 丹平製薬株式会社HP
伝統薬の事典(東京堂出版) 鈴木 昶
日本の名薬(東洋経済新報社) 山崎 光夫
日本の伝統薬(主婦の友社) 宗田 一
〔現代の製品提供〕
・昭島市 十字堂薬局 荻野 祥子 先生
伝統薬の事典(東京堂出版) 鈴木 昶
日本の名薬(東洋経済新報社) 山崎 光夫
日本の伝統薬(主婦の友社) 宗田 一
〔現代の製品提供〕
・昭島市 十字堂薬局 荻野 祥子 先生
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