昔はこんな薬もありました 2
~ 市販されていた覚せい剤等 ~薬物乱用は深刻な問題ですが、密売や犯罪を目的に作られた場合はともかく、医薬品としての麻薬や向精神薬(睡眠薬、精神安定剤、抗不安薬・・・)は医師や薬剤師の適正な管理の基に使用されるならば、本来末期がんの疼痛や精神神経系の疾患に悩む患者さんにとっては福音となるべき医薬品であります。 では過去のこれらのクスリたちはどんな風に、どんな目的で使われていたのか? クスリの歴史を知る上でぜひ知っておきたい史実です。
1. 昔の阿片・塩莫・燐古のビンおよび大正期の阿片の譲り受け証
- これらのビンは明治期に使用された洋方医の往診用藥籠箱に入っていたもので、阿片はアヘン、塩莫は塩酸モルヒネ、燐古はリン酸コデインのこと。
これらがどのような病気に使われたのか、推敲して後日藥籠箱本体と他の薬瓶とともに御紹介する予定ですが、大正2年(1913年)および大正3年の阿片末の譲り受け証は医師が止瀉の目的で購入した際の書類のようです。
2. ヒロポン(瓶のみ。中身はありません。念のため。)〈大日本製薬 500錠〉
- この前の敗戦(終戦)の頃“ポンちゅう”という言葉がありましたが、つまりヒロポン中毒のことで、覚醒剤と覚醒剤中毒の代名詞が昭和18年から25年にかけて大日本製薬が発売したヒロポンでした。
我国薬学の祖として有名な長井長義はドイツ留学の後、明治16年(1883年)の政府出資官製会社の大日本製薬の設立に技師長(のち東大教授)として参画、その後明治18年(1885年)には麻黄よりエフェドリンを単離し世界で初めてエフェドリンと命名し、その後誘導体のアンフェタミン類までも抽出合成に成功しました。
この喘息治療薬のエフェドリンの合成過程から誘導されるアンフェタミン類つまりアンフェタミンとメタンフェタミンのうちメチル基の付いているメタンフェタミンの方が薬理作用が強くこれがヒロポンで、メタンフェタミンは明治26年(1893年)に長井長義により合成されております。 ちなみにエフェドリンは現代でも覚醒剤密造の主原料となっています。 (エフェドリンや麻黄成分を含む市販の風邪薬の値段が高いのは密造をしても採算が取れないようにするためという説がありますが、それよりも密輸入した方が手っ取り早い・・・。)
“ヒロポンの値段は注射10本入り(公定価格)81円50銭であるが品不足で100円以上でヤミに流れている。 ヒロポン錠剤は20錠入り21円、50錠入り43円でヤミはない。これらを買うには薬局にハンコをもっていけば誰でも買えることになっている。”なおコレクションのヒロポンの瓶には[除倦覺醒剤]と書かれており、また東京市と入っていることから昭和18年当時のものかと思われます。
3. ゼドリン(瓶のみ。中身はありません。念のため。) 〈武田長兵衛商店 100錠 +広告〉
- ヒロポンと双璧をなす代表的覚醒剤がゼドリンでした。
上記のアンフェタミンがすなわちゼドリンで、まずアメリカで吸入剤やヤセ薬として販売され覚醒剤蔓延の原因となったもので、我国では武田薬品の前身の武田長兵衛商店が発売してました。
この広告には睡眠除去などの効能が書かれていますが、瓶の箱に書かれたゼドリンの適応症は[睡眠病、憂鬱症、脳膜炎後遺症等、]でした。
4. ブロバリン錠 催眠鎮静剤 〈日本新薬 30錠〉
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ブロムワレリル尿素
適応症 不眠症・神経衰弱・ヒステリー・頭痛・船暈
5. ピラビタール錠“第一” 〈第一製薬 20錠〉
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ピラビタール
能書より 「ピラビタールは解熱鎮痛剤アミノピリンと腦幹性催眠剤バルビタールの分子化合物であって・・・。モルヒネ等の様なアルカロイド性のものでないから、習慣性等の危険が無く、(略)安全に、且つ迅速に奏効する。極めて強度の疼痛には、モルヒネ等(略)の普通用量の1/3位と併用すれば、一層効果があり、モルヒネ等麻薬の使用を適當に節約出来る。」
6. 新グレラン錠 鎮痛・解熱・鎮静剤 〈武田薬品・グレラン製薬 20錠〉
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ピラビタール/フェナセチン/カフェイン
能書より 「夜驚症・不安興奮の鎮静・就眠困難の鎮静・・・」 パッケージ、納書がかわいいです。
7. トリクロリール錠 催眠剤〈グラクソ・鳥居薬品 4錠 100円〉
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非バルビツール酸系化合物トリクロホスホナトリウム
〔現薬価基準にもトリクロリールシロップ(アズウェル)で収載されている。〕
能書より 「不眠症(就眠困難)」
8. コントール入荷ポスター ( 縦 61.5cm × 横 21.6cm)
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“心の疲れを取る・・・タケダのコントール
只今入荷 6錠・12錠・30錠。
現代ではうつ病は“こころの風邪”と称されていますが、このキャッチフレーズ“心の疲れをとる”はそれなりに言い得ていると思えます。
9. バランス宣伝入り包装紙 ( 縦 25.8cm × 横 35cm )
- 相撲は腰~下半身の安定性、バランスが必要・・・に掛けてか。
10. アトラキシン宣伝入りマッチ{ノイローゼ・不眠症・肩こりに}
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アトラキシンはカルバメート系抗不安薬のメプロバメートの商品名でした。
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