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昔はこんな薬もありました 17

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~ はげの薬・毛はえ薬…などなど ~



このシリーズでは昔のいろんな薬や健康器具を紹介してきました。今回ははげ(禿)の薬です。
  • はげ(禿)の原因には仮説を含めていろいろなものがあります。
    例えば
    *加齢(:過齢・禍齢:年齢とともに髪の毛は数少なく、細く痩せてくる…。)
    *ホルモン(:特に男性に見られる禿は男性ホルモンの作用による。)
    *ストレス(:典型なのは円形脱毛症ですが、そこまでゆかなくともストレスや度を過ぎた頭の使い過ぎは脱毛、抜け毛を促進
     します。精神疾患の一種でストレスから自分で毛を抜いてしまう抜毛症、抜毛癖、病もありますがこれらは本題とは別物です。)
    *ちょんまげやポニーテール(:相撲取り・力士やポニーテールのように持続的に長年頭髪を引っ張り続けると脱毛をきたします。)
    *強烈な日差し・紫外線・UV(:対処として帽子をかぶりますが、それが逆効果になる可能性も…。)
    *帽子やヘルメット・鉄兜のかぶり過ぎ(:一部の野球選手や軍人などにみられる。ムレるためと思われる。)
    *食べ物(:脂肪過多、ミネラル不足。)
    *睡眠不足・喫煙・過労(:要するに不規則、不摂生な乱れた生活。)
    *間違った洗髪、毛染め、整髪料、毛はえ薬もはげ(禿)の原因となるようです。
     そして加齢とともにどうしようもない、抵抗出来ない、あがらうことの出来ない運命的な原因には遺伝(子)があります。

  • 抜け毛が気になりだしますとまずは整髪料や毛はえ薬に救いを求めますが、そのうちより高価なカツラへと救いを求めます。
    近年ではカツラも進化しアデ○○ス、アート○○○○ーなど一大消費市場を形成しています。

  • 一方はげ(禿)に使う薬には別名毛生薬(毛はえ薬)、発毛剤、育毛剤、養毛剤などなどさまざまな呼び方がありますが、要するに使うことで毛髪が生えてくる薬です。

  • 過去さまざまな毛はえ薬が世の中に登場し消え去って行ったようですが、本項ではコレクションのなかから伝統薬を含むそんな薬を取り上げてみたいと思います。

(1)『毛生液』その1

:東京市日本橋馬喰町で“山崎愛國堂”が製造していた毛はえ薬です。
本剤の広告は大正の初期のころにも見られますが、なんといっても本剤『毛生液』の特徴は薬効をそのものズバリとあらわした商品名と登録商標にあります。
その登録商標は和服に日本髪の女性の顔にヒゲが生えているという絵です。
頭髪どころかヒゲまで生える、しかも女性にまでヒゲが生えてしまうほどの毛生え効果があることを暗示した図案で、文字にするとありえなく嘘っぽくなってしまうのをうまく絵でカバーしています。
しかも片ヒゲなので、両ヒゲではしつこいですし、度を過ぎて漫画チックになってしまうのを片ヒゲとしたところがデザイン、図象の妙と思われます。

(2)『毛生液』その2

:(1)と全く同名の関西の大阪で作られていた毛はえ薬です。時代は売薬印紙が貼ってあることから明治15年(1882年)から大正15年(1926年)にかけての製品のようです。 (1)の関東産『毛生液』その1が日本人学者連名の有効保証があり登録商標が片ヒゲの和服美人という純国産イメージで売り出しているのに対して、この関西産『毛生液』その2は米國醫學博士クリッフスコック先生方剤で、かつ登録商標が西洋髪の西洋美人という洋風イメージでまとめています。 このように比べますとその2はあくまでもその1の向こうを張った、逆のイメージで売り込んだ毛はえ薬と思われます。(本品は未開封です。開封すると骨董価値が下がるためなかなか開封に踏み切れません。)

(3)『毛髪必生藥』

:愛知県名古屋市で作られていた貝殻に入った毛はえ薬です。
売薬印紙が貼ってあることからやはり明治15年(1882年)から大正15年(1926年)の間の製品と推定されます。(効能書には明治21年1月改正と書かれています。)
名前が筆文字で『毛髪必生藥』と太く強く書かれていますが、よく読むと横にひらがなで「けのきっとはえるくすり」と書かれているところが絶妙です。 使い方は指でぬるようですが、“ 決して口中へ入れるべからず”とあることからかなり強い薬だと思われます。
附言には“如何なる難病後の人又は如何に毛の少なき性質の人たりとも十貝までを引続き用いられるときは必ず良効を奏すること…… 確く保証するところなり。”と書かれていますが、“ 但し老衰(としより)にて頭(かしら)の禿たる人は其効無し。”とキッパリと書かれています。

(4)『ハエール』

:商品、特に薬の命名にはいろいろと苦労がありますが、これはたぶん(1)(2)よりは時代が下りますが戦前名古屋で作られていたズハリと毛が生える効き目を横文字風にあらわした『ハエール』(生え~る)です。 正式に医薬品としての許可は得ていなかったのか水野毛生原料と書かれています。
効き目とは関係ありませんがボトルが非常にモダンな形のガラス容器です。

(5)『加美乃素A』

:比較的最近作られた養毛剤で現在でも市場にあるいわば伝統薬(医薬部外品)の一種の『加美乃素A』です。 1932年に世界に先駆けて『加美乃素』を発売していますから立派な伝統薬といえます。またメーカーの(株)加美乃素本舗は2008年には創業100周年を迎えました。
味の素という調味料がありますが、『加美乃素』とは要するに髪の素です。


(6)『ミツワ養毛液』

:この『ミツワ養毛液』は『肝油ドロップス』のミツワ石鹸本舗丸美屋商店が製造していた毛はえ薬で店頭用ディスプレーです。

(7)「毛料(もうりょう)」(解説書)

:(1)(2)(3)と同時代のものと推測される毛生え薬の解説書です。
昔の解説書(納書)はずばりと脅かすような文面で書かれているものが多く、この解説書もそのようなタッチで書かれています。

一部抜粋してみます。

“髪の美(うる)わしきは十難かくす。凡(およ)そ毛の有るべきところに毛の無きほど体裁悪しきは無し。高帽立派にして一見紳士の値打ちと存ずるも一たび其帽を脱ぐときは頭の中央に小判大の赤禿ありては甚(はなは)だ見苦しき限りにあらずや…。 (婦人においても)丸髷束髪の結方如何に上品なるも横鬢に天保(銭)大の禿山を見渡すときは又三文の値打ちもなし。(略)
毛のあるべきところに毛の無きは人生不幸中の不幸と謂べし。(略)”
また禿には軽重あって一瓶で効く場合もあれば、二瓶三瓶で効果なく十瓶用いて初めて効果のみられる場合もあるので十分な薬量を用いて(効き目のない)罪を(この)薬に期することのないように…。

また(3)と同じく老衰にて頭の禿たる人は其効無しとも書かれていて、うまく無効の際の予防線を張っています。


(8)「ユナミン」(解説書)

:戦後のものと推測される液状の塗る毛生え薬の解説書です。

“こんな驚くべき人命の救助がかくも手軽にできます。
 今まで発毛を害し血圧を高めた脳および頚動静脈の凝血毒素を見事に
 溶出する新発見…。
 一、毛生の作用が目に見えて来る
 二、フケ、カユミが全々なくなる
   ……(略)……
 六、高血圧が平常にくだる
 七、動かなかった手が動いてくる
 八、動かなかった足が動いてくる
 九、記憶力がよくなってくる
 十、気分が非常に爽快となる

本当にこんな効果のある新発見ならば単なる毛生え薬と売り出すのがもったいないような大発明と思えます。


〔付録:髪の毛に関するそのほかの資料をご覧下さい。〕

(1)三共の「ヨゥモトニック」の店頭暖簾(のれん)です。禿がタイプ別に分類されています。
   現代では禿頭団体から人権侵害で告訴されるかもしれません。

‘総退却型’‘鍾乳洞型’‘あちゃらこちゃら型’‘一列縦隊型’‘瀧の白糸型’
‘こぼれ松葉型’‘明鏡止水型’‘孤城落日型’



(2)頭髪虱専門薬「ヘヤクリン」
:発売元が日本生薬化学研究所ということから生薬由来の、頭虱駆除薬のようで、平量を熱湯で約一合位に溶かして、頭髪に塗り数時間後に温湯にて洗い落すというものです。


(3)獨逸式(ドイツ式)シラミ石鹸
:バッケージの女性の絵とは反対に “使用後5分間にして化学的強力なる殺菌ガスを発生して髪シラミ毛シラミを30分間に洗滅す。” という毒ガス兵器のような強烈な石鹸です。
各小学校はじめ紡績工場などでの特に女児童、女工のシラミ退治におすすめです。


(4)クモ印「くせ毛直し」
“女は髪容姿折角美人に生れ縮毛のために其美容を失す。
これ御婦人一代の大欠点と云ざるを得ず。(略)
如何なる六ケ敷(むつかしき)縮毛にても立處に癖を伸し毛を正直ならしめ決して癖の戻ることなく…。


(5)「カミノモト」(はげかくし ねどめ用)
:“ねどめ用”の意味がよくわかりませんが、つかいかた(:はげの、あぶらけをきよくふきとりカミノモトをぬりのばし、ぬりたる上をふきわかし、ハリツケ布をはりつけてねどめにする・・・とあります。

(6)白木屋パンフレット
:銀座にあった有名デパートの白木屋の髪に関する市用品「カミカ」「カロアール錠」「カミビーマ」のパンフレツトです。 特に「カミビーマ」は空前の発明の点熱刺激による電気療法器です。




〔参考文献〕
・「嘘八百」(天野 祐吉 著) 文春文庫
・加美乃素本舗 : インターネットフリー百科事典『ウィキペディア』より
・禿とは(ハゲとは) - ニコニコ大百科より
・育毛剤がない時代の毛生え薬 丹野 顯(あきら) 都薬雑誌VoL.31 №9(2009)


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