北多摩薬剤師会おくすり博物館　シッカロール

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昔はこんな薬もありました 24

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～　シッカロール　～

このシリーズでは昔の薬局、薬屋で扱っていた品々を取り上げていますが、今回ご紹介するのは『シッカロール』です。
日本の気候の特徴は国土が温帯地方に位置するにもかかわらず、湿度が高い、特に梅雨時から夏場にかけての高温多湿、そして雨の多い風土が特徴です。
日本の国土は海岸線からさほど距離を経ないですぐ山となりそこへ多量の雨が降るため、樹木に富み、水（と平和）はただで手に入るのですが、明治になって来日した欧州の白人は、川というとゆったりと流れるライン河やボルガ河などのイメージがあるため、日本の川は河でなく滝だと言ったそうです。
またヨーロッパなどでは乾燥しているので地下室に埃（ほこり）はうっすらと積もることはあっても日本のように綿ぼこりは無いそうで、当然ながら有史以来日本では家屋に地下室を作るなどという習慣は無いというより出来ませんでした。
そして家屋の構造や衣服の特徴は（：現在のではありません。）冬の寒さよりも、梅雨時から夏場にかけての季節をいかに涼しくすごすかに力点、工夫がはらわれてきました。（逆に言えば日本の家屋における暖房は暖炉、ストーブやオンドルが発明されることなく、せいぜい庶民は火鉢や囲炉裏（いろり）、懐炉、湯たんぽ･･･などで暖をとっていました。やはり明治になって来日した欧州の白人、探検家が北海道の開拓団の家屋、降雪のなか戸板一枚がすぐ外の家屋、そして暖房は貧弱で、衣服はせいぜい綿製･･･防寒対策に困惑し、日本の寒さは世界でも最も厳しい…と言ったということを読んだことがあります。）
エアコン、冷房、クーラー、除湿機、冷蔵庫等々が必要以上に発達しすぎた現代では季節に由来する日本人の生活、風習も随分と変わってしまいましたが、今回ご紹介する『シッカロール』に代表される汗知らずは夏場の汗疹（あせも）対策には欠くことの出来ない品物、日本人の風習のひとつでした。
特に夏の間はお風呂や行水からあがった後、湯上がりはもちろん、近所の空き地や縁日に遊びに出かける時も、蚊帳に入る前も、また夏に限らず床屋さん（：理髪店でなく、ましては美容院でもなく、あくまでも床屋さん。）で散髪を終えたあとも首筋あたりへ『シッカロール』をパフで真っ白にはたいたものです。
『シッカロール』は和光堂株式会社の登録商標（：ラテン語の乾かすを意味するシッカチオから名付けられたとのこと。）ですが、汗疹（あせも）に使う撒布薬は一般にはベビーパウダー、汗知らず、あせしらず、打粉、てんかふん（天花粉、天瓜粉）などとも呼ばれますが、江戸期にははまぐり（はまぐり）を焼いて粉にしたものとうどん粉や米粉、牡蠣（かき、ぼれい）の粉、葛（くず）の粉、天花粉（天瓜粉。
キカラスウリの根から採取した白い澱粉の粉。）などがあせもの予防や治療に使われ、明治期にはひき茶（抹茶）小麦粉、蕎麦粉なども使われていたようです。
そして明治中期になると『シッカロール』の主成分である亜鉛華（＝酸化亜鉛。ZnO。亜鉛を空気中で加熱して作る白色の粉末。ZnOを99%以上含有。）が使われはじめ、明治後期になると亜鉛華澱粉（：亜鉛華・酸化亜鉛・ＺｎＯとデンプンを等量混和したもの。）が普及してきたようです。
・明治以来『シッカロール』以外にも数多くの汗知らずが製品化されましたが、明治39年（1906年）に和光堂薬局を開設した弘田長博士と大霊界で有名な丹波哲郎師の先祖の東京帝国大学薬学科教授の丹波敬三が共同で生み出した当時の『シッカロール』は亜鉛華４０％、タルク（滑石。含水珪酸苦土鉱物。やわらかくて蝋のような感触がする。）、澱粉２０％からなる製品でした。（発売当初は和光堂薬局の片隅で乳鉢で細々と作られていたとのことです。）
では『シッカロール』、ベビーパウダー、汗知らず、あせしらず、打粉、てんかふんコレクションをご覧下さい。（特に『シッカロール』のパッケージ、の移り変わりにご注目下さい。）