ジェネリック(GE)篇(その1)
~ ジェネリック(GE)篇(その1) 「メンソレータム」 ~**はじめに**
新企画として、それこそ星の数ほどある(あった)売薬を紹介するシリーズを始めたいと思いますが、そのうちジェネリック(GE)篇として何回かに分けて売薬におけるジェネリック品(GE品、後発品)を紹介してゆきたいと思います。
かつてゾロゾロと言われた後発品、ジェネリック(GE)品は近年の厚労省による普及啓発の結果もあって、その言葉は国民、市民に浸透してきましたが、昔よりOTC、売薬・配置売薬、医療用医薬品・・・商標登録という制度があっても医薬品の業界は似た商品、類似品であふれていました。
昔、医療用医薬品の分野でも鎮痛剤の“イタサリミン”と“サリイタミン”がGE同士で商標登録を争った例がありましたが、特に売薬配置売薬の世界では、先発大手の薬だけで市場を独占するのは物理的にも不可能で、今のように衛生状態も良くなく又国民皆保険制度が無くまたサプリメント・健康食品も存在していなかった時代には、GEを含めた配置売薬や市販薬と、そしてそれに携わる人々が国民の健康の保持、維持に寄与したことは歴史的にみても間違いない事実だと思われます。
ということで、ジェネリック(GE)篇としてまず今回は『メンソレータム』をご紹介したいと思います。
1. 『メンソレータム』
- 『メンソレータム』の起源は日清戦争のあった1894年(明治27年)という大昔にまでさかのぼります。この年にアメリカで『メンソレータム』が開発されたわけです。
その名前はメンソール(Menthol)とワセリン(ペトロレータム:Pet-rolatum)の合成語に由来するとのことで、本邦には日露戦争の真っ盛りの明治38年(1905年)にアメリカから来日した宣教師ウィリアム・メレル・ヴーリスによって伝えられました。
明治38年に来日したヴーリスは紆余曲折の後、布教活動の資金を得るため明治41年(1908年)には京都三条のYMCAで建設設計事務所を開設、また大正9年(1920年)には(株)近江セールズを設立し、『メンソレータム』の輸入販売を開始しました。
その後『メンソレータム』は全国の薬局・薬店に置かれ多くの人々に愛用され、大正に入ると朝鮮半島、満州、台湾にまで代理店が置かれるほど津々浦々にまで広まり、昭和6年(1931年)にはメンソレータム八幡工場が完成し、それまでの輸入から国内での生産へと切り替わり家庭常備薬として一層の躍進が計られました。
また(株)近江セールズは昭和19年(1944年)には(株)近江兄弟社と改称、ヴーリスも昭和16年(1941年)には日本国籍を取得し“一柳 米来留(ひとつやなぎ めれる)”と改名しました。
戦後も『メンソレータム』は家庭常備薬として愛用され続けましたが、残念なことに(株)近江兄弟社は昭和49年(1974年)に業績が悪化し倒産してしまいました。
その後『メンソレータム』は昭和50年(1975年)にロート目薬やパンシロンで有名なロート製薬がアメリカのメンソレータム社より専用使用権を取得し『メンソレータム』を製造・販売、一方(株)近江兄弟社は社員の再建努力の結果、製造・販売の再開にこぎつけ「メンターム」を発売、現在に至っています。
現在もロート製薬の『メンソレータム』のマークには看護婦(看護師ではなく)さんの格好をした女の子、リトルナース(;名子役のシャリー・テンプルがモデルと言われている。)が使われており、一方近江兄弟社の「メンターム」にはギリシアのアポロをヒントにしたキッドマークが使われています。
このような歴史ある家庭常備薬の『メンソレータム』ですが、昭和の30年代にはその後発品、類似品が200種類近くもあったとのことで、自分のコレクションには60~70種類の『メンソレータムもどき』があります。
本物の『メンソレータム』も混ざっています。
うち下の写真小瓶×2個と平型缶は近江セールズ社時代〔大正9年(1920年)から昭和19年(1944年)〕のもの、大瓶は近江兄弟社時代のもので戦後のものです。
大瓶の納書には次のような一文が書かれています。
道を求る友へ メンソレータム本舗の近江兄弟社は、イエス・キリストの福音を伝道することを目的とした団体です。
キリスト教を知り度い方々の為に通信による伝道部がありますから、返信用郵税を添えて御申込下さい。
折返しキリスト教の手引等をお送りします。
宛先は近江八幡市 近江兄弟社基督教通信学会
近江セールズ社
近江兄弟社
- 後発品(GE薬)のパターンは大きく分けて名前を似せたもの、デザインを似せたものに分類されますが、コレクションに見られる『メンソレータム類似品』の名前を羅列してみたいと思います。
なお現在の近江兄弟社の「メンターム」も類似と言えば類似ですが、長い歴史を考えますとそれは酷なように思えます。
「メンタム」「白メンタム」「愛用メンタム」「朝日メンタム」「暁メンタム」「家庭メンタム」「明治メンタム」「明色メンタム」「福寿メンタム」「葉緑素メンタム」「五分間メンタム」「日新メンタム」「延壽フラシンメンタム」「雪の肌白メンタム」「さくらメンタム」「だるまメンタム」「つくしメンタム」「特製ポーラメンタム」「メリー白色メンタム」「仁愛ネオメンタム」「アサヒメンタム」「アドメンタム」「オモトメンタム」「キクメンタム」「キンシメンタム」「クリームメンタム」「クミアイメンタム」「クロバーメンタム」「サンメンターム」「ポーラメンタム」「マルトメンタム」「モリメンタム」「モリタメンタム」「ヨカメンタム」「メンタムリソー」「メンタムポプラー」「メンターム」「ニッサンメンターム」「第一メンターム」「家庭メンターム」「ミクニメンターム」「つばめメンターム」「メンスター」「メンタリーム」「ペルメル」「ペンタム」「メンソールクリーム」
現在のメンソレータム メンターム
[付記1]
- ヴーリスの設立した建設設計事務所の手掛けた設計は千数百件にも及び、東京お茶ノ水の主婦の友社(現お茶ノ水スクウェア)はじめ関西の関西学院大学、同志社大学、神戸女学院、大丸心斎橋店、大同生命ビルなどの建築物があり、また近江セールス社は西洋建築金物の輸入も行っておりなんと現在の国会議事堂のドアノブもその一つだとのことです。
[付記2]
- 『メンソレータム』のサービス品もあわせてご覧下さい。
(ゾロ)
景品のインク吸い取り紙
( 本項参考文献 )
・町田 忍 著 懐かしの家庭薬大全 角川書店
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