昔はこんな薬もありました 10
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~ 赤チン ~このシリーズでは昔の変わった薬や部外品的な品々を取り上げてきましたが、今回から昔よく薬屋で売れていた品々、よく使われていた品々も御紹介してゆきたいと思います。
今回とりあげますのは『赤チン』です。
10.赤チン
- 『赤チン』とは赤いヨードチンキ(ヨーチン)の意味ですが、成分的にはヨードチンキ(:ヨウ素、ヨウ化カリウムのエタノール溶液。)とは全く別もので、ヨウ素(I)ともチンキ(;アルコールの浸出液)とも関係がありません。
- 『赤チン』は正式には“マーキュロクロム( Mercurochrome )液”のことで、マーキュ…、マーキュリー(mercury;水銀)つまりは有機水銀の精製水で溶解したもので、ヨーチンに比べ刺激はありませんが殺菌力はあまり強くなく持続性のある静菌作用を持つ緩和な消毒薬です。
マーキュロクロム 構造 - ところで天然の水銀化合物には辰砂(別名朱砂・丹砂・丹朱。水銀の硫黄の化合物、硫化水銀で水銀製造の深紅色の原料鉱石。赤色絵具の原料にも使われた。)などがありますが、一方英語 Mercuryは水星のことでもあり水星は別名辰星とも言います。
- 結局マーキュロの一番の特徴は“ 赤チン ”の名前でも判るように塗ったあとの日の丸のような、しかもギラギラと輝いている真っ赤な色が特徴といえる消毒薬でした。
- ところが昭和40年代頃から高度成長による公害問題が発生、そのひとつの水銀公害、水銀による土壌の汚染も社会問題となり、この“ 赤チン ”も製造過程で水銀の廃液が発生することから敬遠され、ついには昭和48年(1973年)には国内での原料生産が中止されてしまったようで、昭和30年代の最盛期には100社ほど生産していた“ 赤チン ”も現在では原料は中国から輸入して主に配置販売業の20社程度が販売しているようです。
- 昔はこの“ 赤チン ”以外にもかのヨーチンやオキシフル(:オキシドール。過酸化水素水。H2O2 )や黄色いリバノール(:局方アクリノールの水溶液。)、ホルム散(:アクリノール、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、タルクの混和粉薬。)などもよく使われましたが、昭和46年(1971年)に山之内製薬より「マキロン」が発売されると容器の利便性や色がつかない、しみないなどの理由から消毒薬の王座を奪われてしまいました。
- ところで「マキロン」の名前のマキもマーキュロからとっているとのこと、あたかも“ 赤チン ”がヨーチンに対抗して“ 赤チン ”と名付けたことと共通しているようです。
- コレクションには『 赤チン(マーキュロクロム液)』のほか、マーキュロクロムの入った軟膏類もあります。
またヨードチンキやオキシフル、ホルム散などの傷薬のコレクションもご覧下さい。
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「ホシ マークロ 吸い取り紙」 “ヨジウム丁幾・過酸化水素水の時代は去った 怪我・皮膚病の最新薬” |
「オキシフル 吸い取り紙」 |
アクリノール構造式 |
〔参考文献〕
・『昭和レトロ商店街』 町田 忍 (早川書房)
・『原色和漢薬図鑑』 難波 恒雄 (保育社)
・『薬学大辞典』 日本工業技術連盟
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