薬と歴史シリーズ 9
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~ 軍隊と薬、防毒マスク ~“ 軍隊 と 薬 ” 〔補遺資料集〕
〔補遺(1)〕軍醫藥剤歯科医見習尉官内規- 藥剤師という職業が法律で定められたのは明治22年(1889年)の「藥品營業竝藥品取扱規則」(藥律)からですが、陸軍ではすでに薬剤師となった民間人を陸軍軍医学校にて陸軍の将校担当官として教育しました。 軍医候補生の採用は毎年80人程度で、うち薬剤師は十人程度だったようです。
- 一方海軍では2年で現役士官を終わらせあとは予備役に編入して戦時には招集して員数を埋める制度があったようですが、次にあげる資料は昭和17年(1942年)10月〔:昭和17年の6月には日本海軍はミッドウェー海戦にて敗北、8月からはガタルカナル島での死闘が始まりました。〕に印刷された[朝鮮元山海軍航空隊内 海軍福澤部隊 第一期 軍醫 藥剤 歯科医見習尉官内規]です。(元山海軍航空隊は英国の戦艦プリンス・オブ・ウェールズやレパレスなどを撃沈した96式陸攻=中攻などの陸上攻撃機の基地でした。)
- この内規には日常生活での心得、日課、雑則(入浴、理髪、喫煙、娯楽・・・)などの規則が書かれています。
- なお海軍関係の資料は(薬も含めて)多くの艦船が出撃(出港)した際に沈められてしまったため、あまり残っていないのが実情です。
〔補遺(2)〕防毒マスク
- 昭和20年(1945年)3月10日(:3月10日は陸軍記念日)未明の東京大空襲の際にはマリアナの基地を飛び立った334機のB29による無差別焼夷弾爆撃により、東京の下町一帯を中心に死者10万人近い犠牲を出しましたが、昭和19年(1944年)6月の北九州空襲から昭和20年(1945年)8月15日の終戦の日の秋田・仙台等の空襲に至るまで、日本各地の都市が空襲をうけ焼け野原、焦土と化しました。
- ここに示しますのは愛知縣豊橋市東田町の前畑薬局(京都藥學士・藥劑官少尉)に備えられていた防毒マスク一式です。
- 資料によりますと豊橋市も昭和20年(1945年)の5月19日と6月19日に空襲を受け死亡者624名の犠牲を出したようですが、この防毒マスクは東京王子にあった昭和化工株式会社製の製品で布製の袋に入っていました。
また(昭和15年・陸軍衛生材料厰製の滅菌ガーゼ包、昭和19年・陸軍衛生材料本厰製のガーゼ・三角巾、亜鉛華・デルマ散、警笛、少尉の徽章?など)の入っていた皮革製の鞄も同時に残っておりました。 - その他フェルト(:羊毛その他の獣毛を原料に湿気・熱・圧力を加えて縮絨したもの。)製と見られる、また紐は紙製の粗悪な防火帽も残っておりました。
- さらに『毒瓦斯檢知法(表)』、『応急飲料水検査法(表)』『瓦斯傷と救護資材の利用法』(愛知縣國防化學協會作成)、『家庭應急手當法一覧表』、『東田防衛隊模擬動員下令実施』『在郷軍人名簿』『愛知縣地図』などの資料もあり、これらの資料を見ますと平和な現在と戦時下の当時という大きな違いはあり比較するのはおかしいかもしれませんが、当時の市井(街)の薬剤師に求められた仕事の一つには今でいう防災時の、また学校薬剤師的な空気や水質の分析技術があったようです。
〔補遺(3)〕東大医学部学生への勤労奉仕命令書
- 先の戦争(太平洋戦争)では昭和16年(1941年)12月8日の開戦当初から1年目位までは勢いはよかったものの、2年後の昭和18年10月21日には学徒の出陣も行われるまでに情勢は逼迫しました。
- この資料は開戦1年目の、また学徒出陣にはあと一年を残すところの昭和17年12月17日付の東京帝国大学醫学部の学生、萩原正士君に発せられた“学校勤労報國隊協力令書”で、21日から24日の四日間にかけて毎朝午前8時に板橋區志村清水町にある陸軍兵器補給廠に出頭する事と書かれています。
- またこの命令は昭和13年(1938年)に公布された国家総動員法に基づき発動されたもので、毎日醫学部学生50名が協力すること、作業内容は兵器の手入整理で、正帽教練服、足袋、巻脚を着用し弁当を持参すること、1日65銭の手当が支給されることなどが書かれています。
〔補遺(4)〕徴兵検査表
- 明治憲法では健康な男子には兵役義務がかせられ、旧兵役法では20才の徴兵適齢に対し徴兵検査が行われました。
- この資料は明治時代の徴兵検査表で武蔵國北埼玉郡行田の関根源太郎氏の検査表で體質は強健で甲種合格と書かれています。
- またこちらの資料には甲種よりランクの低い乙種となる者の基準が書かれています。
(例:骨筋系薄弱ナル者。軽症の脚氣。痛風。斜視。吃語。兎唇。斜頚などなどが読み取れます。)
〔補遺(5)〕軍隊書物:医療や衛生・防疫に関係する書物をとりあげてみました
- 補助看護兵教程〔昭和6年(1931年)版 陸軍省印刷〕
- 現場檢水及消毒方法〔昭和12年(1937年)版 陸軍省印刷〕
- 陸軍衛生部将校陣中必携〔昭和18年(1943年)改正版 陸軍省印刷〕
《追加補遺》
陸軍病院服務規則【昭和12年8月25日印刷】 |
衛生法及救急法【昭和11年3月28日発行】 |
瓦斬防護教範草案【昭和12年2月25日印刷】 |
軍人衛生学【明治33年6月21日印刷】 |
〔参考文献〕
・日本海軍がよくわかる事典 PHP文庫
・日本陸軍がよくわかる事典 PHP文庫
・日本陸軍がよくわかる事典 PHP文庫
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