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家庭薬「ペルメル」とサイパン島秘話

 まだまだ夏の暑さの続く2013年9月10日の火曜日、北多摩支部の事務局にメールが届きました。(:一部加筆してあります。)

“「ペルメル」についてお聞かせ下さい。
私は、奈良県に住んでおります栗山美和と申します。
突然のメール、失礼いたします。
実は私の現在93歳になる祖父がかつてあの玉砕の島、サイパン島で戦っておりました。
戦いのさなか右肩を怪我をして洞窟に隠れている時、少女が駆け寄ってきて、‘兵隊さん、血が出てる。お薬塗ってあげる!’と言って薬を塗ってくれたそうです。
その薬の名前が「ペルメル」という薬だったと聞きました。
その後パソコンで何度も「ペルメル」を検索しましたが出てきませんでした。
祖父の間違いだったと思っておりましたが、今回もう一度検索してみますと「ペルメル」の写真を当サイト『おくすり博物館』で見つけ、ただ感動しております。
祖父も大変喜ぶと思い写真を見せようと思いますが、もう少し大きな画像はないでしょうか?
また今週末の土、日、月曜日には祖父の戦争展と私のサイパン慰霊の旅の写真展「生きる力~サイパン島の奇跡~」を地元奈良の吉野で開催いたします。お写真などがございましたら展示会で是非ご紹介したいと思っております。どうかご協力下さいますようよ ろしくお願い申し上げます。”

 このメールを読ませていただいた時、すぐにある三部作の本のことが頭に浮かびました。 その本は2011年に小学館より出版された『太平洋戦争 最後の証言』(門田隆将著)という題名の本で、先の戦争に従軍した元兵士達が90歳前後の高齢化を迎えるなか、その方々の後世に残すべき証言を纏めたドキュメントの本です。 第一巻は『零戦・特攻編』、第三巻は『大和沈没編』、そして第二巻が『陸軍玉砕編』です。
 この三部作、実は初版の際に買い揃えてあったのですが、零戦や戦艦大和には多少なりとも栄光の影があるのですが『陸軍玉砕編』は栄光とは程遠く、特にサイパンや沖縄の戦いは非武装の民間人も多数犠牲になっており惨めで悲惨であまり読む気にならず、つん読状態で置いたままでした。
 サイパンの戦いでは3万人の将兵のうち生還したのはわずか3%程度、2万人もいた民間人も半数の1万人が犠牲になり“玉砕の島”“バンザイクリフ”“悲劇の島”などとも呼ばれておりますが、もしやメールの主の栗山美和さんの祖父様のことも書かれているのではないかと思い精読してみますと、“第四章玉砕の島「サイパン」の赤い花”に奇跡の生還をされた祖父の栗山寅三様の体験が書かれており、〈死ぬなら花の下で〉のなかにつぎのような一文を見つけました。

“十歳ぐらいの女の子が(略)薬を塗ったるっちゅうて、ペルメルっていう薬を塗ってくれた。 その子が、兵隊さん、私らどないしたらええ。どこへ行ったらええっちゅうことを聞いてきてね。そやけど、わしも教える言葉がなかったわけやね。 (略)一緒に休んでいる民間の人らについて行きなさいと言うしかなかったねえ…”




「生きる力~サイパン島の軌跡~」
DVD(一部)

作成 栗山美和
 そこで保管してある「ペルメル」を探し出し、急遽再度写真を取り直しまずはメールに添付して送付、さらには偶然2個入手してあった「ペルメル」のうち一つを展示会で展示していただけるように至急奈良へお送りいたしました。
 展示会が開催された週末には台風18号が日本列島を襲い奈良はじめ京都、滋賀などでも大きな被害が出ましたが、戦争展・写真展には悪天候にもかかわらず300名もの皆様がご来場され、「ペルメル」を見て“よく残ってたな!”と感激されていたとのことでした。
 そして後日美和さんより次のような言葉をいただきました。

“展示会の直前のわずか数日でさんざん探した70年も昔の、しかも今も残っているかどうかも分らないサイパンの洞窟で祖父の傷を癒してくれた「ペルメル」に出会えることが出来たなんて…奇跡だと感じます。 薬剤師会、事務局の皆さまによろしくお伝え下さい。”

 長年さまざまな薬に関係するコレクションをし、また支部のホームページで公開させていただいてきた自分にとっても、この「ペルメル」にまつわる出来事は忘れることの出来ない時空を超えたような奇跡を感じさせる夏の記憶となりました。


〖追記〗
○「ペルメル」は『おくすり博物館 ジェネリック編“メンソレータム”』の項目に登場しています。
 「ペルメル」はキンチョールで有名な(株)大日本除虫菊が1928年(昭和3年)から製造・販売していたフランスのペルメル氏が創案した
 メンソレータム的な家庭常備薬・万能傷薬ですが、現在の同社のHPにもその小さな写真が載っているだけです。
 現存している「ペルメル」は蓋は厚紙で作られており、戦時中の物資不足を感じさせるものです。
○メールの主の栗山美和さんはこのようにサイパン慰霊の旅の写真展や、小学校での戦争と平和の講演、サイパン島玉砕から70年目
 の節目の来年には現地で行われます記念慰霊祭でのスピーチを行う予定などの活動に積極的に取り組んでおられます。
○祖父の栗山寅三様は当時の「ペルメル」の事をメンソレータムのような塗ってもらったらスーとして楽になった、小さな缶に入った軟膏…
 と正確に記憶されており、そして「ペルメル」を塗ってくれた十歳ぐらいの女の子のことは今日に至るまで一日たりとも忘れたことは無
 いと述懐されております。

アイワ堂薬局 平井 有 記


サイパンメモリアルパーク内のフレームツリー
(火炎樹・南洋桜ともいう)

添付資料
・「ペルメル」写真
・戦争展・写真展のポスター
・『太平洋戦争 最後の証言』



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