ジェネリック(GE)篇(その3)
~ ジェネリック(GE)篇(その3) 「仁丹」 ~今回は「メンソレータム」「ケロリン」に続いて『仁丹』を御紹介いたします。
3. 『仁丹』
- まず『仁丹』の歴史を見てみます。
『仁丹』のその創始者の森下博は明治2年(1869年)、広島にある神社の宮司の子として生まれました。
・が、その後父は宮司を辞めて煙草の製造販売に転業。博も家業を手伝いこの時草根木皮の精選加工の感覚を身に付けました。
・父の死後、博は大阪に出て洋品店に勤めたが、結婚後には大阪淡路町に念願の薬種商を構えました。
(当時は宝丹、精?水、大木五臓円などの振興売薬が華々しく売り上げを伸ばしており、それに触発されたようです。)
・が、2年後に軍隊に応召され、任地の台湾で伝染病に感染。そこで彼は現住民が清涼剤を口に含むことで伝染病に感染しないようにしていることを知り、後の『仁丹』の発想を得たようです。
・まず丸や散のようによく製剤名として用いられていた丹の字に、儒教の“仁義礼智信”より仁の字をとり『仁丹』の名称を明治33年(1900年)に商標登録しました。
次に千葉薬専(千葉大学薬学部の前身)の薬学士の協力を得て処方を決定。(甘草・阿仙薬・桂皮・茴香・生姜・丁字・益智・縮砂・木香 ・薄荷脳・龍脳・甘茶・各種芳香性精油;この組み合わせは改良の余地が無いので現在もこの処方内容とのこと。)
・明治38年(1905年)に森下博薬房の名のもとに『仁丹』を発売にこぎつけました。(2005年で発売100周年記念。)
・その後商標の大礼服姿が日露戦争勝利と相俟って売り上げは拡大、発売2年にして売上高は日本家庭薬のトップとなりました。
・そして“仁丹といえば広告”と言われる程、『仁丹』は広告に力を入れ、売り上げの三分の一を宣伝費に投資、薬店の突き出し看板はじめ鉄道沿線の野立看板、新聞、電柱、琺瑯(ホーロー)看板、広告塔、イルミネーション(仁丹塔)…ありとあらゆる広告媒体を利用。
その後『仁丹』の販路は中国大陸はもちろん、ボンベイ、ジャワなどインドにまでも広がりその後の日本繁栄の道を席巻す。
- 以上『仁丹』の歴史を紐解いてみましたが、売り上げの多い薬の後には類似品が続々とついてくるもので、配置売薬はじめ『仁丹』の後を追った数多くの◎丹を御紹介します。
[付録1]
- “丹”とは、本来は道教・道家のもとで不老不死の目的で作られた手のこんだ製剤で、医薬においては唐代までの医書では“千金要方”にある太乙神性丹だけですが、その後“丹”の名の付く製剤は激増、例えば“和剤局方”では全体の1割近い70もの丹剤が収載されています。しかしそのほとんどは生薬の粉末を煉蜜や糊などでねり合せたもので丸剤とほとんど変わらないもので、それは当時皇帝の諱(いみな)の完の音が丸と似ているので当時の医書は丸を丹に改称したとの説があります。
いずれにせよ“丹”は字が簡略で、日本語の発音が○○タンとしまりが良く、ゆえに○○丹という名の付く薬は多く、本来は丸薬の『仁丹』もその一つと考えられます。
[付録2]
- 『仁丹』にはバリエーションに富んだ仁丹ケースがありますが、コレクションのなかから明治期のものと思われる楕円形金属ケース容器と大正2年当時のブック容器(鏡付き)等と昭和7年当時の満州国旗をデザインした珍しい満州容器を紹介します。
ブック容器 閉じたもの 景品ミラー(裏面)
[付録3]
-
『仁丹』の商標・トレードマークの大礼服姿は軍人ではなく外交官、つまり『仁丹』は薬の外交官だとのことです。
写真の大型両面看板は片面が『仁丹』、もう片面は鉄血宰相ビスマルクをトレードマークにした『毒滅』という梅毒新薬の広告になっています。
『仁丹』の戦前の木製ゴミ箱には資源報国とありますが、これはリサイクルのことではありません。
[付録4]
-
ありとあらゆる広告媒体の一つとして明治43年頃から『仁丹』マークの入った町名看板を電柱など辻々に掲げはじめました。
戦災を受けなかった京都などでは現在でも見掛けることがあります。 コレクションは骨董市で正規に購入したもので、私が勝手に電柱からはがしてきたものではありません。
念のため。(いずれも戦前のものです。)
[付録5]
- 各種のチラシ、広告類。
左端の防共容器とは昭和15年(1940年)の日独伊三国軍事同盟当時のチラシで、防共とはソビエトを中心とする共産主義の蔓延を防ぐという意味があり、チラシには満州国旗の他、ナチス、ファシストの旗も画かれており時代考証上価値のあるものです。
( 本項参考文献 )
・町田 忍著『懐かしの家庭薬大全』(角川書店)
・町田 忍著『仁丹は、ナゼ苦い?』(ボランティア情報ネットワーク)
・鈴木 昶著『伝承薬の事典』(東京堂出版)
・赤堀 昭著『日本の技術 漢方薬』(日本産業技術史学会)
©一般社団法人北多摩薬剤師会. All rights reserved.
190-0022 東京都立川市錦町2-1-32 山崎ビルII-201 事務局TEL 042-548-8256 FAX 042-548-8257