ジェネリック(GE)篇(その7)
~ ジェネリック(GE)篇(その7) 「六神丸」 ~このシリーズでは「救命丸」や「實母散」などの伝統薬も取り上げましたが、今回は『六神丸(ろくしんがん)』です。
『六神丸』も「救命丸」や「實母散」と同じく起源が古すぎるため、それは一般名であって登録商標名ではありません。
よって『○○六神丸』と名付けられる仲間が多数あり、富山や奈良などの配置売薬を含めますとその業者は100社にも及ぶといわれています。
大本の本家中国には各種の『六神丸』の処方があるようですが、我国の『○○六神丸』の共通先祖は雷氏方(:雷氏方の『六神丸』自体原典不明です。それほど古いということ。)といわれる処方で、その改変した系統が多数作られているわけです。
この雷氏方『六神丸』の成分は牛黄・雄黄・真珠粉・麝香(ジャコウ)・竜脳・蟾酥(センソ)(:六味)でその効能は腫物治療が主体(:「中国医学大辞典」)となっているとのこと、日本の各種『六神丸』やその延長の『救心』や『牛王丸(牛黄丸)』(紀伊国屋)などが強心作用を薬効の主体としているのとは大きな違いが見られますが、牛黄や蟾酥(センソ)には近年強心作用が確認されているので、これも日本人の得意な原理を輸入して応用発展させる一例、好例とも言えます。
ところで『六神丸』の『六神』の名の由来にはいくつか説があります。
一つは陰陽五行説の東西南北の四神〔青龍(東)・白虎(西)・朱雀(南)・玄武(北)〕に勾陳、騰蛇の二神を加えて六神にあやかった秘薬が2000年も昔にあり、それに由来するという説。
もう一つは陰陽五行説の五臓六腑の五臓に心包を加えた六臓をつかさどるそれぞれの神に効き目があるので『六神丸』と名付けたという説などがあります。
ところが我国で『六神丸』が製剤として発売されたのは比較的新しく、『六神丸』の中で最も有名な『亀田の六神丸』が売り出されたのは明治26年(1893年)と百十数年ばかり前のことです。
元々は京都で紅を商っていた江州(:近江國。滋賀県。)甲賀郡出身の亀田家は、後に呉服商に転じて鹿子絞りを扱う井筒屋利兵衛の名で知られた商家でした。
その6代目利兵衛の長男の利三郎は日清戦争後、親戚の清水焼きの陶工が支那(中国)の景徳鎮に行くのに同行した際に上海で病気(水あたり)になりましたが、当地の『六神丸』でたちまち快癒、その経験から国内でも発売することを計画し、当初は中国産の『六神丸』を輸入していたようですが明治26年には呉服屋から薬屋に転業し国産化の研究を始め明治33年ごろに製造を実現、成功したものです。
その後幾多の薬制や薬事法の改革によりその成分や効能に変更がありましたが、現代の『亀田の六神丸』(亀六)の成分は牛黄・真珠・麝香(ジャコウ)・竜脳・蟾酥・熊胆・人参(:七味)で高貴薬の蟾酥(センソ)、麝香(ジャコウ)や熊胆が含まれています。(『亀田の六神丸』の詳細ないきさつは同社のホームページに詳しいので こちら もぜひご覧下さい。)
現在の『亀田の六神丸』の効能は
“めまい・息切れ・気つけ・腹痛・胃腸カタル・食あたり”ですが、
コレクションにある戦前の『亀田の六神丸』の効能は次のようなものです。
“肺病・胃病・心臓病・痢病・下痢・霍乱・時邪(はやりかぜ)・癘毒(あやしきやまい)・疔瘡(ちょうそう)・
腹癰(はらのはれもの)・乳岩(にぅがん)・乳蛾(ちがさ)・腫毒(しゅどく)・喉腫(のどはれ)・脚気(かっけ)
・驚風(けうふう)等”(:万能薬!!!)
7. 『六神丸』
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←辰砂(朱砂)(;天然の赤色硫化水銀)の含まれていた当時の六神丸。 現在では辰砂の代わりに朝鮮人参が加えられている。
『亀田の六神丸』効能書
呉服商からの屋号、赤井筒が見られる。農商務省登録商標。有効無害保証。赤井筒薬。
《各種六神丸》
六神丸の芸術的なガラス製ビン(実物大)
(ゼムクリップ長さ28mmと比べた写真)
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〔付録1〕
戦前の中国(支那)産の『六神丸』の木製看板。
支那政府登録。雷星號。と書いてあります。
『六神丸』の看板。 (縦84.5cm×横14cm)
〔付録2〕
『六神丸』の薄板のスダレ。珍品。
(縦87cm×横18cm)
〔付録3〕
ワシントン条約というものがあります。ワシントン条約とは希少動物の国際間の取引を規制する条約で、日本は昭和55年(1980年)に批准していますが、『六神丸』の成分のうちの熊胆や麝香(:ジャコウジカ)の輸入、特に麝香の輸入は全面的に禁止されています。熊胆は国産の熊胆でなんとかなりますが、(他の牛胆などの代用も認められるようですが、)麝香の新規輸入は不可能となっているようです。中国ではジャコウジカの人工飼育の研究もあるようです。
( 本項参考文献 )
・鈴木 昶 伝統薬の事典 東京堂出版
・宗田 一 日本の名薬 八坂書房刊
・山崎光夫著 日本の名薬 東洋経済新報社
・加藤三千尋 名薬探訪 同時代社
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