ジェネリック(GE)篇(その8)
~ ジェネリック(GE)篇(その8) 「熊の胆」「熊胆丸」 ~これまでこのシリーズでははっきりとした元祖・本家・本元があって、その後から似た仲間がぞろぞろといっぱいくっついて来た薬達を紹介してきました。
今回紹介する薬はもともと民間薬的に庶民に普及していた先祖が特定出来ない薬のひとつの『熊の胆(くまのい)』『熊胆丸(ゆうたんがん)』を紹介します。
ワープロによっては“くまのい”と入力しますと『熊の胆』と印字される機種があります。
また広辞苑で“くまのい”と引きますと【熊胆】とあり“胆汁を含んだままの熊の胆嚢を干した物。味苦く、腹痛・気付・強壮用として珍重。”と説明されています。
中国古典の『本草綱目』では“熊”はその脂・肉・掌(:手。中華料理で使う。高級料理。食べたことなし。)・膽(胆)・脳髄・血・骨などが薬用部位として挙げられ中華料理のごとくほとんど全体が薬として使われていたようです。
そして中国の古典における胆汁の利用の例としては牛膽(:うし)・狗膽(:いぬ)鯉魚膽(:こい?)・豚膽(:ぶた)・鶏膽(:とり)・蛇膽(:へび)などが挙げられますが、一方旧約聖書にはある種の魚の胆汁が化膿性眼病に外用されることが書かれ、またアラビヤ、インドでは動物の胆汁を内服薬として用いており、この面においては現代のようなイスラム教とキリスト教圏の対立のようなものはなく、全世界で動物の胆汁は薬として利用されてきたようです。
『熊胆』(:局方ではユウタン。Bear Bile)は従来はベテランによりその色調や形、味、においなどによって品質の劣悪が判定されていましたが、それは胆汁酸の組成や抱合様式のちがいによるもので、原動物の種類(:熊にもいろいろある。)や食物、季節・捕獲時期に関係します。つまりは琥珀様といって黄褐色透明で生臭いにおいのないものが良品とされています。
一方現代ではその一部を拝借して薄層クロマトグラフなどにかけることで胆汁酸の組成や抱合様式が判り、その優劣ばかりでなく牛膽や豚膽で偽造したものや、黄柏、山梔子(:くちなし)、黄連で偽造したものも偽者とバレテしまいます。
そして『熊胆』はほかの牛・猪・豚などの獣膽と異なって室温でも湿潤しなため丸薬などの製剤にしやすく日本に伝えられてからは頻用されるようになりました。
特に江戸の初期の漢方古方派の先駆者の後藤艮山(ごとう こんざん;弟子には“一本堂薬選”で有名な香川修庵や日本で初めて本格的な解剖を行い“臓志”を著した山脇東洋などがいます。)が灸、温泉などとともに『熊胆』を賞用、宣伝したので(:後藤艮山は別名“湯熊灸庵”とも呼ばれた。)江戸時代から売薬原料として珍重されたものです。
本草綱目「熊」の図 | 後藤艮山翁 | 熊胆 |
『熊胆』が現代的に単純にウルソデ(ス)オキシコール酸とすれば苦味健胃作用(利胆、胃痛、下痢)が適応症のほとんどとなりますが、古来解熱作用や小児の疳疾、寄生虫、痔疾や結膜炎などにも効き目があり用いられてきました。
平成16年(2004年)は台風多発の影響で人里にも多くの熊(月の輪熊)が現れましたが、それに劣らず昔売薬業界では熊が多かったことがわかります。では。
8. 『熊の胆(くまのい)』『熊胆丸(ゆうたんがん)』
- 江戸期~明治にかけての熊胆丸(圓)のパッケージ
戦前~近代の熊胆丸(圓)いろいろ
- 〔付録〕
(1)『家傳 熊膽丸』『正眞 熊乃膽』が書かれた江戸期のチラシ。
江戸時代の売薬売りの絵が描かれています。
(2) 熊胆木香丸 江戸期より売られていた売薬。熊胆、木香以外の成分は不明。
( 本項参考文献 )
・難波 恒雄著 原色和漢薬図鑑 保育社
・国譯本草綱目 春陽堂
・日本の漢方を築いた人々 医聖社
©一般社団法人北多摩薬剤師会. All rights reserved.
190-0022 東京都立川市錦町2-1-32 山崎ビルII-201 事務局TEL 042-548-8256 FAX 042-548-8257